月曜日、

「子供を産んだ後の妻が、子供を産む前とは同じ人間だと思うな」
感性アナリストであり随筆家でもある黒川伊保子氏が語っていた言葉で、僕の頭に非常に印象に残った一言だ。なぜ残ったかというと、単に意見や常識として語っているのではなく、人工知能を研究している黒川氏が科学的な知見に基づいて論理的に説明をしてくれたからである。
黒川氏によると、産後の妻が、それ以前の妻と変わってしまうのは母性が影響しているという。母性と聞くと、何だか良い響きのように聞こえる気もするが、この母性も科学的に説明ができるとのこと。
母性とは、子供を守り育てる感性のことだ。少し言い方を変えると、人生資源の全てを一時的に子供の捧げるという感性、言うなれば本能である。ここで言う人生資源とは、時間、気持ち、人的パワー(手をかけること)、食べ物などありとあらゆる資源のことを指している。
多くの動物が生きているこの世界で、人間の子育てというのは動物界最大コスト最大リスクであると、黒川氏は話す。だから、そもそも子育てというのは妻一人で出来るようなシステムになっておらず、周りから支援を受けて営んでいくことが当たり前なのだ。家族や友人の場合もあるかもしれないが、一番のサポート役は一番身近にいるパートナーなのである。
だから、人生資源の全てを子供に捧げるという母性が発動している子育て期の間、一番身近にいるパートナーに対しても、同じように人生資源の全てを捧げろと思うのは、性格とかそういうのではなく、感性であり本能なのである。
出産する前の妻と夫との会話で、例えば、ちょっと物を取ってほしい時に
妻:「ちょっとあれ取って」
夫:「え?どれ?」
妻:「あれだよ、あれ。」
夫:「あ、これか。はい」
妻:「ありがとう~」
みたいな普通の会話が繰り広げられるのだが、産後の妻は違う。例えば今目の前に子供が寝ていて、ちょうど寝返りを打ったタイミングで、お尻を拭いてあげようとお尻シートを取ろうとする。でも、そのシートが自分からは届かないところにある。そしてそこには夫がいる。すると、
妻:「おい何やってんだよ、お尻シート取れよ」となるのである。これは意地悪でもなんでもなく、お前も全ての人生資源を捧げろよという母性発動中だからなのだ。
そこで冒頭のコメントである。子供を産んだあとの妻が同じ人間だと思うな、である。
黒川氏によると、子供を産んだ妻は非常に感情的になっていることが多いという。それも本能から来るもので、感情的になるというのは、脳の演算速度を速めるためだという。感情による演算は、気づきの演算と呼ばれていて、「そういえばあの時~」という過去を振り返って今を判断する演算のことを差し、その過去に飛んでいくトリガーとなるのが情動という、いわゆる感情なのだという。
だから、もし妻が感情的になっている時に、それを鎮静化しようとすると、脳の演算がうまくいかなくなってしまって、むしろ逆効果なのだという。
よく「女性は解決じゃなくて共感を求めてるんだよ」という発言を聞くことがあるけれど、これは意見や慣習から来るものではなく、私たちの脳の思考回路や感情を科学的に分析した結果として分かっていることなのだ。
ここまでメカニズムが分かってくると、
「なんでこんなに感情的になってんだよ!」とパートナー側がイライラすることも、多少少なくなるのではないかと思う。
感情的になっている妻がいたら、鎮静化させようとするのではなく、むしろ感情を掻き立てる方向で一回声をかけてあげる。それが共感の姿勢なのだ。
私たちのコミュニケーションも、こうやって科学的な分析を元に、今何がどうなっているから、こういう結果になっているというのが分かると、もっともっとうまくいくのではないかと思った。
そして、ここまでは子育てをする妻側に、パートナーは寄り添うべしということをずっと書いてきてしまったけど、妻側の自覚も結構大事だと思っている。
人生資源の全てを子育てに捧げている自分と、そうじゃないパートナー。そのパートナーの言うこと、やること、全てが腹立たしい。そういうパートナーに言い放つ言葉や態度。それは、実は相当酷いことになっているということに、妻自身も自覚したほうがよいと思う。
そのためには、妻側も自分の脳内回路や感情が一時的にどうなっているのかというのを、知見をもとに客観的に説明できた方がよい。
コミュニケーション1つとっても、ここまで科学的、論理的に語れると、もう少し生きやすくなると思った。