月曜日、
とある映画の中の話。
ホテルのロビーにて。スーツをがっちり決めた男爵がテーブルについてたばこを吸っている。
「トントン」
右手で軽く灰を落とす。手元には綺麗な陶器。灰皿にしては、とても立派な一品である。
実はこれ、灰皿ではなくて本当にお皿なのである。それを男性は誤って灰皿として使ってしまっていた。
このプライドが高そうで、いかにもインテリな男爵が、もし自分が間違っていることをしていると気が付いたら、そのプライドが粉々になってしまう。
ロビーに居たホテルマンが気を利かせて、他のテーブルに置いてあるお皿たちも、全てその時だけは灰皿にしてしまった。
その結果、男爵は自分が間違っていたことに気が付くことなく、恥をかかずにその時間を楽しむことができた。気を利かせたホテルマンの、おもてなしが功を奏した。
片や、同じホテルの別の階にて。フランス料理を食べに来た若いカップル。何かの記念日なのかもしれない。
案内されてテーブルへと歩みを進める。ウェイターの方が、スッと椅子を引く。
どうぞ座ってください、の合図である。
ところがだ。最初にそれに反応したのは男性の方で、先に座ってしまった。
女性の方が後に座る形となってしまったのだ。
食事が終わって帰り道。女性の方から一言。
「さっきのあれ、女性から先に座るのが普通だと思うけど」
男性はハッとした。しまった。確かにそうだった。恥ずかしい。。。
ただそれと同時に、ちょっと疑問に思った。
「もしそのことに気が付かなければ、こんな恥ずかしさを後から覚える必要もなかったのではないか」
そう思うと男性は見るからに不機嫌になった。
女性が言う。
「もしここで教えてあげなかったら、将来またどこかで同じようなミスをするでしょう」
女性は、その場だけでなく、その後の将来のことも考えて伝えたのだ。
ロビーに居たホテルマンと男爵。
パートナーの男性と女性。
前者はその場限りのお付き合いだけど、後者はこれからもずっと続く関係かもしれない。
その場を徹底的に良いものにするのがおもてなし。
その先を考えて行動するのが思いやり。
僕は、沸点めちゃくちゃ高いよねって言われることが多い。
それは恐らくこのホテルマンと同じで、その場をいかに楽しくするかしか考えていないからかもしれない。その先のことをある意味気にしない、気にできないのだ。
この男爵も、将来同じ過ちを繰り返して恥をかくこともあるかもしれないけど、それはこのホテルのホテルマンの責任範疇ではない。
僕も似たような思考回路を持っている感じがしていて、自分の責任範囲から外れた先は見ない。
だから、男女問わず、ずっと長く付き合っていけるような関係に発展しない、そもそもその責任に縛られたくないと思ってしまうのかもしれない。性質なのだ。
今日ラジオを聞いていて、この話を聞いたとき、なんか自分のことを言われているような気がして、はっとした。