HONEST

猫好き・植物好き・ラジオ好きの齢32歳。日々の学びや気づきを、ちょっとだけ得意な文章とイラストで自由に記録していきます。

10月13日 ノック ~傾聴~

日曜日、

 

 

10月の三連休、毎年だいたいこのタイミングで開催されるものがある。

NHK全国学校音楽コンクールの全国大会である。NHKで生放送されていて、テレビを持っていた時代は毎年欠かさず見ていた。小学生の時にこの舞台に上がって以来、ずっとこのコンクールを追っているのだ。

毎年課題曲があるのだが、歌手や小説家、詩人が歌詞や曲を手掛けている。これまで数多くの課題曲が生まれてきたが、僕が好きなのが、2020年度の高等学校の部の課題曲『彼方のノック』である。

学生に絶大な支持を集める小説家、辻村深月さんが作詞を手掛けている。

 

youtu.be

 

僕個人の解釈だけれど、この曲は「傾聴」が持つ無限の可能性、を説いていると思う。

 

歌詞の中に出てくる「僕」は、この曲の主人公。

長く暗い廊下の先にある扉を目指して歩き続けている。この扉が、押しても引いても何をしても開かないのである。

体をなげうって、いのちを燃やしてでも、とにかくこの扉を開けたい。この暗くて孤独な空間から出してほしい。僕をここから出して。僕を傷つけた人がたくさん居る、この空間から出ていきたい。

主人公である僕は必死に扉をこじ開けようとする。

ふと、扉の向こう側に誰かがいることに気が付く。その人は泣いている。僕が必死で開けようとしているその扉の向こう側で、その人も扉を開けようとしている。

「ここから出して!!どこかへ行きたい」

そう叫んでいる人が居る。その人も僕の存在に気が付いて、扉から手を放せ!近づくな!と言っている。でも同時に、「遠くへ行かないで、、、」と孤独に苛まれている。

 

まるで僕みたいだ。主人公の僕はそう気が付く。

 

孤独と闇はどんどん増していって、置き去りにされることに怯え始める。もう、明るいあの青空の下に立つことはできないのではないか。不安が最大限になった時、ここで初めて主人公は、その扉をこじ開けるのではなく、ノックをするのである。

 

すると、その扉から光が差し込み、簡単にその扉が開いてしまうのだ。そのたわいのなさに絶望する。扉の向こう側には、僕と同じように泣いていた人がいる。

こうやって永遠に開かないと思っていた扉が開いていく。

 

まるで短編を読んでいるかのようだ。この曲が、2020年というコロナ禍のNHKコンクールの課題曲であったということ、そして高校の部の課題曲であったということに、深い意義を感じる。

 

コロナ禍では、誰しもが孤独を感じていたと思う。特に、将来がまだ全然見えない高校生にとっては、この歌詞のようにどこまでも続く暗く長い廊下が目の前に広がっていたことだろう。

そんな時、「なんで私だけこんな辛い思いをしないといけないの?」そんな風に狭い視野で考えてしまいがちだと思う。

コロナだけではない。高校生と言えば、友達と分かりあえなかった時、受験を控えて親や家族とぶつかった時、さりげない出来事で孤独を感じることがあるだろう。

とにかくここから這い上がらないと。そうやって自分だけを見て、自分がそこから這い上がることだけに命を注ぐ。でも、一向に事態は改善しない。

 

そんな時、この曲の歌詞にも出てくるように、自分本位から相手の視点にも立つことで事態は好転するのである。

 

”わたしのためだけに開こうとしていた扉は、あなたの涙を止めても構わないと思った途端に、あっけなく開いていく”

 

ノック、これは傾聴を表していると僕は理解していて、そうやってみんなが自分のためだけに扉を開けようとするのではなく、

『こんこん」と相手の様子を伺うようにすれば、実は今目の前にある重い扉も、将来立ちはだかるかも知れない大きな扉も、開いていくのである。

 

コロナ禍の高校生に対してエールを送る曲だけれど、同時にどの世代に対しても、肩の力を抜いて相手に耳を傾けることの大切さを説いていると思う。

うまくいかない就活生、すれ違いが多い夫婦、成果を出せない会社員。

体を使って体当たりするのではなく、「こんこん」とノックをしてみよう。

 

今目の前にある大きな扉は、簡単に開くかもしれない。