日曜日、
月に1回通っているヘアサロン。11月は、今日がその日だった。
決して安くはないのだけれど、毎月自分へのご褒美として通っている。それくらい、このヘアサロンが好きなのだ。
ここのオーナーは、まだ若い男性。通い始めた当初から、ご指名でいつも髪を切ってもらっている。
このサロンに出会うまで、僕は美容室が好きではなかった。髪を切ること、髪を染めたりパーマをかけて、数時間前の僕とはまるで別の自分になれること、簡単に変身できる空間である美容室、それ自体は魔法のようでとても好きだ。
問題は、雰囲気と会話である。
本当はコミュニケーションがとても苦手なのに、無理に頑張ってお客さんに話しかける、気持ちは分かるんだけど、そういうのはバレてしまうんだよね。
これまで通ってきた美容室は、本当は髪を切ることに専念したい職人気質なんだけど、やけに中身のない話をどんどん振ってくる。
その結果、僕は嘘をつくしかなかった。なぜなら、嘘をつかないとその場が盛り上がらないような話ばかりだったからだ。
結局これって、ド無神経じゃない限り、客側が気を遣うことになっている。
『ああ、せっかく話しかけてくれるんだし、笑顔で接してくれてるんだから、会話を盛りあげなきゃいけない』
そう思うことが分かっていたから、毎回美容室の予約を入れることそのことがまず苦痛で、そして美容室に行くまでが億劫だった。行ってしまえば覚悟は決まるのだけど、また翌月までのカウントダウンが始まる。
なんだそれ、って思っていた。
少しお金を稼げるようになって、今のヘアサロンを見つけた。
無口ではないけれど、無駄に話しかけない。
客側が話しかけようとしていたら、うまくボールを拾う。
無理に会話のネタをふってこないから、話すことがなければ黙っていても全然気まずくない。
この空間、この雰囲気って何なんだろう。前からずっと関心というか不思議に思っていた。
僕は性格的に、会話の一言一言や、間で色々と考えてしまう。
”今のその言葉の裏には何があるの?”
”ちょっとトーンが落ちたけど、もしかしてあまり話したくない?”
”この後どう展開しようかな”
”面白いお客って思ってもらえるかな?”
こんな感じだ。
だけど、今のヘアサロンはその変な感じが一切ない。きっとオーナーはもしかしたら相当色々考えているんだろうなぁと思っていた。
しかし、今日あることが判明した。
なんと、僕と同い年の今年31歳。さらに、生まれた日も数日違うだけらしい。
「昨年は、お客様から30歳記念として、年末は色々と飲み会に誘われたんですが、今年はそれがないと思うと、少し楽です」
この発言で、年齢が発覚した。
そこからは、まるで鱗が剝がれるように、この心地よさの理由の解像度が上がっていった。世代観が同じってこういうことなんだなぁと思った。でもそれだけじゃない。
彼もどちらかというと仕事ばかりしているらしい。だから、プライベートと仕事の間に境目がない。
突き詰めるタイプ。
お酒はあまり好きじゃない。
1人の時間こそ一番の贅沢だと思っている。
あああ、そうか。こういう根のところが近いから、なんか無理がないというか、別に話さなくても分かるというか、そういうことなんだなぁと思った。
どこまで本当かは分からないけど、彼もそんな風に思っていたらしく、
「楽だなぁ」と感じていたらしい。
僕は、職場でも、こういう自分がお客になる時でも、いつも目的やメリットを意識してしまう。
合目的的な性格なのだ。
でも、そんなことが必要にならないとき、それこそが自分が一番リラックスしている時なんだなぁと、実例を伴って実感できた。
業界は全然違うけれど、なんか似た者同士。これは勝手に僕が思うだけだけど、これからも「同士」として思わせて頂こう。
彼は、年内は12/31ラストまでみっちり働くという。もう12月最終週の予約は埋まり始めているとのこと。
ウカウカしていられない。
年内最後に気持ちよくまた会えるように、残り1カ月僕も頑張ろう。