土曜日、
器用か不器用かと問われたら、僕は100%不器用だと答える。
学生時代の話。留学先で現地に馴染むのに、他の人に比べて相当な時間がかかった。テストに関しては、周りの友人達が効率よく大事なところだけ勉強して、ちゃんと単位を稼いでいるのに対して、僕はどこかだけ掻い摘んで勉強しても全く理解ができず、他の人の倍の時間がかかった。
新社会人時代の話。僕は最初営業部署に配属された。先輩社員や同期が、得意先の担当者と楽しそうに世間話をしているのに、僕はそのレベルの関係性を築くのに、相当な時間がかかった。業界的に夜の飲み会のお付き合いも非常に大事で、嫌でもついていかなければいけなかったが、笑顔を作れるようになるまで1年はかかった。
転職仕立ての時の話。とにかく地頭がいい人、頭の回転が速い人しかいない。だから、新しくジョインしたメンバーに対して、こと細かく説明するという文化が全くなかった。そんな状況で、即戦力として参画していくためには、転職初日から残業して、週末は勉強を積んでいく必要があった。
今だって決して器用になったわけではないし、賢くなったわけでもない。
例えば社内の会議や、広告代理店との会議の場。こういう時の資料は最低でパワポ30ページはある。相手のプレゼンが終わるや否や、疑問点をぶつけたりディスカッションポイントを提示することが求められる。が、僕にはそれがなかなか難しい。もうあと10分時間をくれ、と言いたくなってしまう。
一方で周りのメンバーは、特に焦った様子もなく、淡々と自分の意見を述べたり質問をしたりしている。焦る。
とにかく僕は器用ではない。不器用なのだ。だから、僕にとって必要なことは、それは時間なのである。
理解するのに人の倍時間がかかるのであれば、その時間を前もって確保して全体をスケジュールすればいい。
新しい環境や人に慣れるのが苦手なのであれば、時間を使ってゆっくりと慣れていけばいい。その時間分を見越して、全体を設計すればいい。
そして、時間をかけられれば必ず得られるもの。それが経験と実感である。
他人の倍の時間をかけたら、単純に経験値は二倍になる。
多く経験を踏めば、もちろんその分、苦い経験も増えると思う。というかむしろ、ほとんどが苦く、辛い経験になると思う。でも、苦い経験だって最終的には、「こういうこともあったね」「これだけやったんだから」という実感に変わり、最後は自分の自信に変わっていく。
ポジティブな楽しい成功体験も、ネガティブな辛い経験も、最後は自分のエネルギーに変わっていく。
だから僕は、不器用な僕は、時間をかけて積み上げて自分の自信に変えることで、これまで一つ一つこなしてきたと思っている。
まるで自己分析みたいな文章になってしまったけど、こんなことを思ったのも、大塚製薬のカロリーメイトのWebCMを見たからだ。
美大と理系大学を目指す2人の受験生の様子を描いた作品。この中で、美大を志す生徒が一言、
「消しゴムってさ、間違いを消す道具なんじゃなくて、光を与える道具なんだって」
と言う。
僕はこれを聞いて鳥肌が立った。僕の母が美大出身なのと、高校の時に仲の良かった友人が何人か美大に進学していて、みんな確かにそんなことを言っていた。
「光を表現するのに消しゴムを使うんだよ」と。
黒く塗りつぶされた暗い過去だって、消しゴムがあればそこに光を与え、全体のデッサンを、より立体的に美しいものに仕上げることができる。
光も、影も、栄養にして。
このWebCMで伝えているキーメッセージ、まさにそのものである。
すごく腑に落ちて、そして泣けた。