HONEST

齢31歳。音声コンテンツ好きの僕が、日々の学びや気づきを、文章とイラストで自由に記録していきます。

5月26日 東京で生きる

日曜日、

 

 

麻布競馬場がおもしろい。2022年に集英社から出版された著書『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』で、一躍有名になったサラリーマン兼作家である。最近新作が出版されたタイミングで、各種メディアに再び呼ばれるようになっており、僕もラジオを聞いていて、幾つかの番組で彼がゲストとして呼ばれている回を聞いた。

 

彼が描き出す、地方から出てきて東京で就職している若手社会人のリアル、本当に共感することしかない。

彼が1993年生まれということもあって、今のアラサーが抱える葛藤についての描写は、鳥肌物である。彼自身が経験したこと、いま自分が当事者として感じていること、見ているものを書いているから、とてもリアルなのだ。

著作、ラジオなどなど、色々なところで名言を残している彼だけれど、その中でも特に印象に残っているのは、僕らはどうやって幸せを感じることができるのか、についての彼の考えだ。

簡単に言うと、僕らは競争の中で常に上へ上へと競い合い、他人と比べて自分が優位に立てていることを実感することで、幸福を実感することができる、ということだ。

 

地方都市に住んでいると、まず東京は別世界のものとして崇められる。そこに行くためには、一生懸命勉強してテストで良い点を取って、東京の大学に入るしかない。もちろん、それだけが正解じゃないことは重々分かっているのだけれど、東京の大学に行き、東京で就職するというのは、地方に住んでいる人にとっては、当時は分かりやすい指標だった。

とにかくその目標だけ突っ走っていくのだけれど、テストの点が良ければ褒められる環境にいることで、いい点を取るということに対して幸せを感じ始める。

努力していればちゃんと成果になるんだと、その成果というのが分かりやすく点数に出てくるんだと、そうやって幸福を感じ始めるのだ。

 

そういう幸福論が植え付けられてしまうと、そこから抜けることは結構難しい。

今みたいな、色々な大学入試の制度が増えたり、キャリアの多様性みたいな話があまりなかった時代だったから、これしかもう目指す方向性がなかった。

 

ただ、いざ上京してみると、自信は一気に圧し折られる。でも、競争の中で認められることにしか幸福感を見いだせなくなっているから、意識高い系のサークルに入って、周りと比較して自分が優位にいることを意識したいと思うようになる。

その活動が好きなんじゃなくて、その活動をしている自分が好きなだけ。努力していれば必ず成果が出る、と考えている自分が好きなだけ。

 

でもそれから10年が経ちアラサーを迎えると、どんなに頑張ってもある程度までしかならないことが分かってきたりする。努力は必ず成果に繋がる、と信じてそこまではがむしゃらにやってきたかもしれないけど、このタイミングに来ると、結構違う景色が見えてきて、幸せって何なんだろうと、ふと考えるタイミングが多くなる。

 

バリバリ仕事をしてきたお陰で、それなりに資金もあるし、ほとんど自分が好きなように暮らせている。でも、どんなに物欲を満たしても、その年収を作るために犠牲にしてきた沢山のことがもう取り戻せないと知って、虚無感に襲われる。

 

年収1千万円が見えてきたとしても、所詮手取りでは700万円レベル。そうなると、実はタワマンなんて絶対住めないし、それなりに好立地だけど1Kが良いところだろう。何のために働いてきたのか、見えなくなってしまう人。

 

髪の毛振り乱して子育てに励む自分。キャリアを捨てた結果、もちろん生活も厳しい。確かに、子どもというかけがえのない存在は尊いけど、こんな暮らしを望んでいたのだろうか。

その一方で、男性に劣らずバリキャリで働いてきた女性。会社ではもちろん、私生活でも結構自分の好きなようにできている。ただ、家族という大きな存在が自分にはないことに気づき心が痛む人。

 

もちろん地方出身者だけではないけれど、特に地方から東京に出てくる人は、東京で生きる今の自分を、ふと客観的に冷静に見る時、心が抉られるような虚無感が襲ってくることってあると思う。

 

彼の作品『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を読まずして、最新作をよみはじめているけど、きっと処女作に出てくる人はこういう人が多いだろうと、勝手に想像する。

 

だから東京は、僕にとって厳しいけど、同時に優しい。そして東京が好きだ。きっとこれからも、ここ東京で生きていくのだろうと、僕は思った。